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花鳥風月

2008年6月29日設置

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止まった時間 7話

 城内にはいるとすぐに光弥は視線を浴びた。あきらかに、歓迎してない視線。
「ちょっと・・・なんであの子がいるのよ?」
「俺に聞くなよ。俺だってわかんないんだから・・・。」
「キィリのやつなにを考えてるのでしょうか?」
「まったくだ・・・。」
ひそひそとささやく声が城内に響きわたった。光弥は不安そうに辺りを見回す。
いつ、誰が襲ってくるかわからないこの場で気は抜けない。
「あいつらのことは気にするな。攻撃してくれば俺が何とかするさ。」
自信満々にキィリは言った。
(こいつ1人であいつらに敵うのか?)
そんなことを思いながらも心のどこかで安心していた。そして、建物の中へと入って
行った。
 城の廊下に光弥とキィリの足音が不気味に響き渡る。キィリは大きな扉の前で止まった。
もちろん、その扉もシュラの城とまったく同じものだった。
 キィリは扉を2回ノックした。
「失礼します。」
そういって、扉を開けた・・・・・・。

 アルシャナの村ではシュラとサラが行動を始めた。
「サラ、そろそろ行きますよ?」
「はい。シュラ様。」
サラはシュラの問いに返答すると、シュラは微笑んだ。しかし、すぐ真剣な表情に戻ると
城の門を開けた。
「絶対はぐれないように、ついてきなさい。」
少し厳しい口調でそういうとシュラは自分の羽をを大きく広げた。サラも同じようにした。
やはり、シュラに比べサラのほうが羽の大きさは小さかった。
そして、2人は闇夜へと飛び立った。

 扉の中にはいると、さっき会ったエミアという女が睨んだ。
光弥はなるべくエミアのことを気にしないようにし、中央の椅子に視線を向けた。
中央の椅子には女がうつむいて座っていた。
「キィリ、どういうつもりですか?」
その女は顔をあげた。そのとたん、光弥は立ちすくんだ。
 力強く赤い瞳、周りにただす雰囲気、漆黒の長い髪、大きな黒い翼・・・・。
そして、なにより驚いたのは顔が・・・・シュラに瓜二つだったのだ。
「シュ・・・・シュラ・・・・・。」
「シュラに似てるがシュラじゃない。あのお方の名前はユラだ。」
キィリが光弥に弁解し、ユラという女性に顔を向けた。
「この者が俺たちの世界についてよく知りたいと申すもので、暗闇の中1人で答えを見つけ
 ようとしたのに痛感し、つい、この場へ導いてしまいました。申し訳ございません。」
ユラは片膝を床につけ頭を下げるキィリを不愉快そうに見つめたが、すぐに視線を光弥に
向けた。そして、光弥に尋ねた。
「お前がシュラの予言の者ですか?」
いきなりの問いに光弥は驚いた。そして、少し間を空けて返答した。
「あ・・・ああ。そう言われた。」
「なるほど・・・・。キィリ、顔を上げなさい。」
「はい。」
キィリは安堵し顔を上げた。
「この者を連れてきたことは許しましょう。しかし、次からは私の許可を取ってからになさい。」
「はい。以後気をつけます。」
そう言い光弥に視線だけを向けた。その目はこの人には絶対に逆らうな・・・と言っているように
見えた。
「それで?お前はなにが知りたいのですか?」
「俺が知りたいのは・・・あなたたちはいったい何なのかと、予言の者とはなにかということだ。」
ユラは少し悩んだ様子を見せた。
「あなたはなぜそれを知りたいのですか?」
「・・・・・・・・・・・・。」
光弥は言葉が詰まった。知りたいわけはきちんとあるのだが、それをうまく言葉にできない。
「それは・・・・・・・・・。」
少しの間考えを張り巡らせたあと、光弥は答えた。
「俺が元いた世界に帰るために、何か役に立つかもしれないし、なにより、俺が予言の者と
 いわれる理由を知りたいからだ。」
そう言うとユラは納得したような表情を見せ、言った。
「いいでしょう。教えましょう。」
ユラは語りだした。

 黒翼人とは、簡単にまとめると、欲望の塊ということだ。
1番最初、そのときは、こんな国などなかった。黒翼人や白翼人などもいなかった。
黒翼人、白翼人、この2つの人種を作り、この国を作ったのはある双子だった。
 その双子が人間だったとき、2人はとても仲が良くかわいい双子だった。
いつも一緒にいて見分けがつかないくらいそっくりで・・・・・そう、幸せな家庭だった。
 2人が、大学生くらいの年になったときだ。生まれてはじめて喧嘩をした。
その理由は恋愛。双子の妹のほうがある男性に好意を持っていたのだが、それを
双子の姉にとられてしまったのだ。妹は深く絶望し、姉に文句をぶつけた。
そして、2人は喧嘩をし、妹は次の日に学校で自殺。姉はあまりのショックに寝込み、
疲労で死んだ。その2人が、なにもない真っ白な世界でもう1度再開した。
しかし、前のようにはいかず、妹は姉を憎み続けた。
その憎しみが形となり黒い翼が生えた。姉は妹を止めるため、妹と敵対した。そして、
姉にも白い翼が生えた。これが、白翼人と黒翼人の誕生だった。
そして、妹はこの国にケアルナという村をつくり、自殺したものをその村へ引きとめて
いった。危機感を感じた姉も同じように村を作り、心残りのあるものをその村へと引き
とめていったのだ。これが、アルシャナの村とケアルナの村の誕生だ。

 ユラは言葉をとめた。
「その双子というのはもしかして・・・・・・・・・。」
光弥は聞いた。
「ええ、私たちのことよ。」
ユラはうなづきなからそう言った。
「じゃあ、予言の者とは一体なんなんだ?」
「2人の憎しみを絶たれさせることができる唯一の希望。つまり、この国を滅ぼすことの
 できる者・・・。」
「!」
光弥は言葉を失った。つまり、この国を滅ぼすということは、この世界の住人をもう1度
殺すということ。その役目を光弥はまかされているのだ。
「そんなこと・・・・1回死んだやつらをもう1回殺すなんてこと、俺には・・・・・。」
戸惑う光弥を見て、ユラは言った。
「どちらにせよ、あなたは予言の者に間違いはない。」
「なぜ?」
「ある程度力を持ってないとこの村には人間は入ってこれないはずですからね。結界を張っ
 ているので。」
「え・・・・・・・・。」
ユラの顔を怪訝そうに見つめた。ユラは微笑んだ。すると、外のほうが騒がしかった。
「何事ですか?」
すると、外にいた黒翼人の一人が入ってき、言った。
「シュラと白翼人がもう1人来ました。」
「やはり、来ましたか・・・・。」
すると、扉が大きな音をたてて開いた。扉の前にはシュラが立っていた。
ユラはシュラの姿を見るとゆっくりと立ち上がった。
「久しぶりね、姉さん。」
「光弥さんを返してもらいましょうか。」
「この方が自分から来たんです。私たちが責められるいわれはありませんよ。」
シュラはゆっくりと光弥に視線を向けた。
「光弥さん、知りたいことはわかりましたか?」
「あ・・・ああ。」
あまりの突然の出来事に光弥は戸惑っていた。
「じゃあ、帰りましょう。サラ、あれを・・・。」
シュラの後ろに隠れていたサラはゆっくりと顔を出し、また、どこからか小さな鞄を
取り出した。その中から直径20cmくらいの円盤を取り出した。それを、シュラに
渡した。
「ありがとう。じゃあそろそろ、帰ります。」
そう言うとシュラは俺の元に歩み寄ってきて腕をつかんだ。
「来なさい。」
すると、円盤を持ち、なにやら唱えると、円盤が人が3,4人乗れるくらいの大きさに
なった。シュラはこの上に乗れと合図した。
光弥は言われるままにその上に乗った。すると、円盤が浮き、宙を飛んだ。
「それじゃあ、またね。」
シュラはにっこり微笑みユラに言うとそのまま城の天井を付きやぶり飛んでいった。
「ユラ様よろしかったのですか?あの者たちを逃がして・・・。」
「いいんですよ。どうせ、この先戦うことになるのですからそんなに急がなくても・・・。」
そう言いながらシュラたちが向かった方向をじっと見つめていた。




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止まった時間 6話

 光弥はあれから自分の部屋には戻らず、城の外へと出た。
相変わらず真っ暗で、村は静まり返っている。こんな中光弥はどこに行こうというの
だろうか?それは、光弥自身もわかっていなかった。
「さて・・・と、思い切って外に出てみたはいいが今からどこに行けばいいのか・・・。」
光弥は村の外へと歩みを進める。そして、村の門を通り抜けた。
「・・・・・あれ?」
村の外に出ると、なにか村の中と雰囲気が違った。夜空を見て、光弥は驚きのあまり
声を失った。
「な・・・・なんだ・・・・これは・・・・・・。」

「シュラ様よろしかったのですか?」
サラはティーポッドを片手にシュラに聞いた。
「いいのですよ。この世界にいる以上あの方にもこの世界の掟に従ってもらわなけれ
 ばならないのですから。」
ティーカップに紅茶をすすぎ、シュラの前の机へと置いた。そして、あたかも不安そう
に言う。
「でも・・・・・彼は何も知らない人間なのですよ。そんな人が村の外に出れば・・・・。」
「そうですね・・・。確かにろくな事が起こるはずがない。でも、あの方は予言の者です。
 そう簡単に死ぬことはないでしょう。」
そういい終わるとのんきに紅茶を飲み始めた。
(それに・・・サラ・・・・彼はあなたの・・・・・。)
シュラは飲みながらあることを考えていた。

 光弥が夜空を見て驚いた訳・・・それは・・・、
「月が・・・・・・・赤い?」
そう、月が赤かったのだ。村にいたときは確かに月は黄色かった。だが、今夜空に光っ
ている丸い月は不気味なほどに赤いのだ。
「これは・・・どういうことだ?」
すると、声がした。
「ほぅ・・・、あの境界線を通ってくるとは良い度胸してるな。」
光弥はすぐさま声のするほうへと視線を向けた。
「誰だ・・・・・・?」
すると、声の主は姿を現した。
「その羽は・・・・・・・・・。」
姿を現した人物はさっきみた奴らと同じ黒い羽をもっていた。
「よく見れば、シュラの予言の奴じゃないか。」
その男は光弥をまじまじと観察するかのように見つめ、薄気味悪く笑った。
「この世界のことが知りたいんだろう?ついてきな。」
その言葉に一瞬度肝を抜かれた。
「え・・・・・・いや・・・、でも・・・・・。」
「いいから、ついて来いって言ってるんだ。それともなにか?今のお前の状況判断してな
 いのか?俺は簡単にお前を殺せるんだぜ。」
光弥は恐怖のあまり硬直した。その男はもう1度笑うと言った。
「冗談だよ。今殺す気はねーよ。とりあえず、ついて来いって言ってるんだ。」
光弥は言われるままついていった。それは、恐怖もあったが、この男について行けばなに
かわかりそうな気がした。
 そのまま歩き続けて1時間ぐらい経過したころ、やっと男の歩みが止まった。
そして、先をまっすぐ指差し、言った。
「ほら、ここだ。」
光弥は男の指差す方を見た。そこは、森で、不気味な雰囲気と静けさが漂っていた。
「ここ・・・は?」
「俺達の住みかだよ。」
そう言われて光弥はもう1度森を深く観察した。
「ここ・・・見覚えがある・・・・。」
「あ??」
光弥の呟きがよく聞こえなかったのか男は聞き返した。
「いや・・・・なんでもない。」
森を直視したままそう言うと、視線を足元にやった。
「・・・で?どうする?入るのか?それとも・・・逃げるのか?」
そう聞かれ、光弥は少し魔をあけてから答えた。
「・・・・・・・・・入る。」
男は不気味な笑みを浮かべた。
「いいぜ、わかった。あと、俺はキィリ・アンリクだ。キィリでいいぜ。ついてこい。」
「俺は、光弥。光弥でいい。」
光弥は言われるままついていった。

 森の中は思ったとおり薄暗かった。しかし、なぜか周囲が見えた。
足音が森の中を木霊する。
「どうして周囲が見えるのか不思議だろう?」
「あ・・・・ああ。」
「俺が近くにいるからだよ。」
「?」
良くわからない顔をするとキィリは笑った。
「俺達黒翼人は、周りにいる奴に暗い中でも周囲を見えるようにすることができるってわ
 けだ。難しく考えるな。」
「黒翼人。それがお前達の種族の名前か?」
「お前じゃなくて、キィリだと言っただろう?」
「ごめん。」
「まぁ、いいか。俺の種族は黒翼人。あいつらの種族が白翼人。わかったか?」
「・・・ああ。」
そして、2人はまた黙して歩き始めた。
 それから、20分くらいたっただろう。すると、ようやく目の前に建物らしきものが見え始
めた。その建物は、シュラの住んでいた城によく似ていた。
「ここが・・・・・・?」
「そうだ。ここに俺達の種族が住んでいる。来な。」
光弥はキィリの後ろについていった。
 キィリは城の前の大きな鉄格子の門の前に立ち、声を少しはりあげ言った。
「おい、キィリだ。この門をあけろ。」
すると、大きな鉄格子の門が開いた。そして、門の内側から人が現れた。
「おい、キィリ・・・一体どこをほっつき歩いていたん・・・・・」
光弥はその人影を見て少したじろいだ。それは、光弥に惨めだと言ったあの女だった。
「お前・・・なんでここに?」
不愉快そうな顔をしてそういったあと、キィリをにらんだ。
「キィリ・・・貴様・・・・・どういうつもりだ?」
「まぁまぁ、そんなに怒るなよ。エミア。」
「・・・・・・ふん。」
小さく鼻をならすと、光弥をにらみ黙って門の中に入っていった。
「な・・・・なぁ。」
「どうした?あいつのことが気になるのか?あいつはエミア。俺達の村を取り仕切ってる
 やつだよ。見た目は怖いが面白いやつだぜ。」
そう言って笑うと、キィリも門の中に入っていった。光弥は慌ててキィリの後ろについていく。
そして、光弥は城内へと入って行った・・・・・・。

 

止まった時間 5話

 昔から光弥はなにもかもに反抗して生きてきた。友達にも、家族にも、そして・・・自分にも。
そんな自分がいやで、でも、どうしても反抗する気持ちを抑えられなくて、いつの間にか
自分が孤独に思えてきた。

自分は惨めだ・・・

毎日のようにこの言葉を心の中で唱え続けた。親でさえも、光弥のこんな気持ちに気づいて
なかった。親にとって自分は世間体を守るための道具にすぎない。
成績やスポーツがよければそれでいい。親は光弥の中身なんて興味がなかった。
何もかも投げ出したい。そう思い続けた。でも、そんなふうに逃げてばかりいると、いつか自分が
壊れてしまいそうで・・・そんな気持ちが右往左往していた。
そして、自分が何のためにいるのか、そんなことを考えるようになっていた。

「大丈夫ですか?」
シュラが心配そうに言った。光弥はその声でやっと現実に引き戻された。
「あ・・・ああ。大丈夫。」
光弥はうなずいた。しかし、シュラの顔から不安の色が消えない。
「そ・・それで、何の話をしてたんだっけ?」
無理矢理話を変え、明るそうな顔を見せた。
 あの黒い翼を持った者たちが帰った後、シュラは光弥を最初に来た部屋へと案内した。
そこで、あの黒い翼を持った者達の話を聞くことにした。
「あの者達の話をするのですよね。」
シュラは光弥の顔を見て言った。
「あ・・・ああ。あいつらはあんた達とは違うのか?」
「そうですね・・・、同じと言えば同じでしょうし、違うと言えば違います。」
「?」
またわけのわからない返答がきた。
「確かに、種類は違います。だけど、元々は同じなんです。わかりますか?」
「それは・・・さっき、魂とか何とか言ってたことと関係があるのか?」
「ええ、その通りです。私達の種族もあの者達の種族も、元は人間。」
「人間・・・・。」
「ええ、あなたは気づきましたか?ここには老人はいないってことを・・・。」
「え・・・・。」
そういえば、確かに今まで見てきた中で老人には1人もあってない。みんな、若い男女だった。
「やはり、気づいてなかったのですね。ここは、寿命よりも、別の理由で死んだ者達の魂が
 集まる世界。心残りのあるもの達が集まる世界。老人は、この世界では昔の姿に戻るように
 なっているのです。」
「それはつまり、ここにいれば、遣り残したことも解決できるのか?」
「ええ、でも、それをするには働かなくてはなりません。世界の均衡を守るためにも・・・・。」
「均衡?」
「ええ。すべてのもの達を何の対価もなく救ってあげるなんてことをすれば、この世の法則が
 崩れてしまう。」
「救ってどうするんだ?」
「他人の体を貸してもらい、その人の中に入ってやり残したことをするだけです。」
「他人の体・・・か。じゃあ、みんながつけているアクセサリーの模様はなんだ?」
すると、シュラの横にいたサラが言った。
「あれは・・・、私達の魂の源です。あの模様を身につけてないと、私達の自我が崩壊し、
 この世界に危害を加えるようになります。だから・・・・、あれは私達の自我を守るために
 必要な存在・・・・・・。」
サラはそういい終わると光弥から顔をそらした。
「・・・・じゃあ、あいつらはなんなんだ?」
「あれは・・・・・まだ・・・言えません。」
また、シュラは口をつぐんだ。
「どうして、そんなに言えないことが多いんだ?」
シュラとサラの表情が一瞬拒んだ。
「それは・・・・・この世界の掟です。」
「掟?」
「知りすぎてはいけない。すべては均等に。ここは、そういう世界です。自分で気づくなら知っても
 いい。でも、他人から聞くことで知識を得すぎることはこの世界では罪になります。」
「罪・・・・・・・。」
「さぁ、今日はここまでにしましょう。あなたも2~3時間しか寝てないのでしょう?今からぐっすりと
 お眠りなさい。サラ、行きますよ。」
そういうと2人は無言で出て行った。最後にサラが扉越しに光弥のことを心配そうに見ていたのだ
が、光弥は考え込んでいて気づかなかった。
 しばらくして、光弥も部屋の外へと出た。
(奴らが俺のことを惨めだと言っていたのは、このことか・・・・。)
光弥は、足を止め廊下の窓から夜空を見上げた。まん丸に大きく光る月を見て、光弥は何かを決
心したように、口を少し強く結んだ。
(じゃあ、この世界の掟とやらにしたがってやろうじゃないか。)
そして、視線を薄暗い廊下の奥へと戻し、歩を進めた。

                               第6話へ続く・・・・・




止まった時間 4話

 外は変わらない景色。真っ暗で、その中を月が自分の存在を主張するかのように
暗闇を照らす。相変わらずの、夜。
「・・・・ん・・・・?」
光弥は目を覚ました。たぶん、まだ2時間くらいしか寝てないであろうに、眠くない。
「トイレにでも、行くか。」
そう思い部屋の扉を開け広い廊下に出た。城内はさっきまでとはうそのように静まり
かえっている。廊下を歩く足音が城中に響き渡ってると思うほど物音ひとつせず
静かだった。
「思ったんだが・・・・トイレってどこだ・・・・?」
足を止め、周りを見た。しかし、自分がどの道をどう来てここがどこだかわからない。
「しまった・・・迷った・・・・。」
光弥は完全に城の中で迷ってしまった。でも、月の明かりのせいで周りの景色はよく
見える。
「とりあえず、歩くか・・・・。」
光弥はまた歩を進めた。しばらく直進すると、大きな扉の前にたどり着いた。
その扉は少し開いており、中から人の話し声が聞こえてきた。
光弥はそっと慎重に中を覗いた。中にいたのは、シュラとサラだった・・・。

 暗い森の中が騒がしくなり始めた。何かが動き出し、何かが始まろうとしている。
「早く用意しろ・・・奴らが目覚めるだろう。」
「わかっている。だが、無防備に突っ込むのも馬鹿というものだろう。」
「あいつらにはシュラがいる。準備はきちんとしていけ。行ってやられたら行った意味がない。
 それに、俺達の目的は戦うことじゃないんだ。」
「わかってるよ。」
何かが・・・・・・・・・始まる・・・・・・・・・。

 (シュラとサラはこんなところで何を話しているんだ?)
ドアの外からそっと聞き耳をたてる光弥。
「サラ、よく聞きなさい。もうすぐしたら、奴らが来るはずです。」
「あの人たちが来るのですか?」
「ええ。だから、今から私が言うことをよく聞きなさい。」
シュラはサラにそっと耳打ちをした。
(さすがに・・・ここまでは聞こえないか・・・・。)
そう思って内容まで聞くのはあきらめようとした瞬間、地面が激しく揺れた。
「うわ!」
光弥は壁に手をつきバランスをとった。少しの間、そのまま激しい揺れが続き、やっとおさまった
と思うと、今度は爆発音がした。
「次から次へと一体なんだ?」
すると、シュラたちのいた部屋の扉が開いた。
「来ましたね。」
「来たって何が?」
「ついてきなさい。2人とも。」
光弥の質問には答えずに、シュラは歩き出した。サラは光弥の顔も見ずに無言でシュラについて
行く。光弥も少し遅れて2人についていった。

 シュラとサラ、光弥が来た場所は城内の外の庭だった。
「サラ、あれを貸して。」
「はい。」
サラはどこに隠していたのか小さな鞄を取り出した。その中からきれいな薄い水色で小石のような
ものを取り出した。
「どうぞ。」
そう言ってシュラに渡した。シュラはそれを手に取ると、目を瞑り、小さく口を動かし何かを唱えた。
すると、手に持っていた石がひとりでに動き出し宙に浮いた。その小石が集まり、ある模様に変わった。
その模様は、白い羽の生えた住人がみんな身につけていたアクセサリーに入ってる模様と一緒
だった。
「な・・・なんだ?」
光弥は口をぽかんと開けた。
「あれは、シュラ様がここの住人を守るために結界を作っているの。」
サラがやっと光弥にまともに話しかけた。
「結界?」
「そう。あの模様は私たちの自我を守るためにある。いわば、私達の中心となるもの。」
「意味が全然わからない・・・・。」
「あとから、話してあげます。今は、これから起こることについて考えましょう。」
その言葉を合図にしたかのように爆発音があり城の周りを囲んでいた塀が壊された。
「あなたと私の役目はシュラ様が結界を作り終わるまで守ることです。」
壊された塀から何かが入ってきた。月が雲に隠れなにが入ってきたかわからなかった。
「この世界に来たばかりの奴が役に立つのか?」
入ってきた何かが言った。すると、少しずつ月が姿を出し、暗闇を照らし始めた。
そして光弥にも一体何が城の中に入ってきたかがわかった。
 そいつらには黒い大きな羽、赤く大きな瞳。黒い雰囲気を身にまとった奴らだった。
すると、不気味な女の笑い声が響いた。
「シュラの予言の子って言うからどんなにいかつい奴が来たかと思えば全然ひ弱な
 子供じゃない。」
「予言?」
(そういえば、来た時もあの執事が言っていたな。シュラの予言の者だと・・・・。)
「予言って一体何のことなんだ?」
光弥がそう聞くとまた笑い声が響いた。
「何も知らないの?惨めね~。まぁ、そのうち気づくでしょ。」
惨めと言う言葉で光弥は頭にきた。
「惨めって何がだよ。わからねーこと聞いて何が悪い?」
「それが惨めだと言っているのよ。」
そう言うとその女は一瞬にして光弥の鼻が届くくらいの距離に来ていた。
「うわ!!」
光弥は逃げようとしたがその女に肩を捕まれた。
「人間ってのはどうして自分で知ろうとしないの?なぜ、人を頼りにするの?
 自分で知る努力もしないで他の人にばかり任せて、それってすごく惨めよね。」
女は光弥の顔をじっと見つめた。光弥はその女の赤い瞳に吸い込まれそうな気持ちだった。
「あなたもそんな惨めな人なら、予言もたいしたことないわね。」
女が笑うと同時に周りの者もいっせいに笑い始めた。すると、シュラの声が響いた。
「黒の翼、白の翼、共にあるべき場所へ、共に元ある場所へ・・・・・・」
シュラの声が響いた瞬間黒い翼を持った者たちは動き出した。
「今日は予言の者を見に来ただけで戦う気はないわ。それじゃあ、またね。予言の者。」
すると、黒い翼の者達は姿を消した。シュラがも一通りの文を唱え終わったらしく、破壊された
塀などがひとりでに元通りに戻り始めた。
「今日は終わりました。城の中へ戻りましょう。」
「・・・・・・・・ああ・・・・・。」
結局今夜何がわかるのか光弥はわからなかったそれよりも今はあの女の言っていたことが
妙に胸に突き刺さっていた。
惨め・・・・・・・
惨め・・・・・・・・
昔何度この言葉を繰り返し自分に言い聞かせてきたか・・・この言葉を唱え何度自分を責めて
きたか・・・昔あったことが走馬灯のように駆け巡った・・・・・・・。

                             第5話に続く・・・・・・・




止まった時間 3話

 シュラたちが案内してくれた村はすごくメルヘンチックなところだった。
みんなは当然のように羽が生え、空を飛んだり、楽しそうに会話をしていた。
「ここが、私たちの村アルシャナよ。」
シュラは言った。光弥はとても不思議そうに周りを見てあることに気がついた。
「なぁ、どうしてみんな同じ模様の入ったアクセサリーをしてるんだ?」
そう、みんな形は違えど同じ模様の入ったアクセサリーをしていた。ある人はペンダント、そのまた
ある人は指輪。全員が身につけていた。
「あれは、私たちの自我を守るためにあるの。」
「自我?」
シュラはうなずいた。でも、説明はせずにさっさと歩き出した。
(聞いちゃまずいことなのかな?)
そう思い、後ろにいたサラにふと目をやった。サラは、びくりと体を震わせ光弥から目をそらした。
(・・・・・・・俺、嫌われてんの?)
そう思いながらサラから目をはずし、シュラのあとをついていく。そして、シュラはある大きな建物の前で
立ち止まった。
「ここが、私の家です。」
光弥はその建物を下から上へと眺めた。
「これは・・・・家じゃなくて城だ・・・・・・。」
ぼそりとつぶやくと、シュラは訂正するように言った。
「こういう家に住んでるのは私だけですよ。みんな普通の家に住んでます。」
確かに周りを見ると、普通の家ばかりだ。
「まあ、とにかく中へおは入りください。」
シュラは光弥を城の中へと通した。

 城の中はすごく活気だっていた。みんな、忙しそうに掃除やら料理やらしているのに、とても、楽しそう
にしていた。
「シュラ様おかえりなさいませ。」
黒い執事のような格好をした人が(もちろん羽もついていた。)シュラに深く頭を下げた。
「ただいま、アース。」
その執事はアースと言うらしく、シュラがそういうと頭を上げまじまじと光弥を見た。
「この方がシュラ様の予言の・・・?」
「ええ、そうよ。そして、予言したとおりサラと最初に会ったわ・・・。」
「それじゃあ・・・・このまま予言したとおりのことが・・・。」
「それは、わからないわね・・・・。」
光弥はこの2人がいったい何の話をしているかまったく理解できなかった。それに気づいたシュラは
言った。
「あなたは、まだ知らなくてもいいのです。どうせ、この先すぐにわかるのだから・・・。」
「?」
とりあえず、聞いてはいけない雰囲気だったので光弥はあえて聞かなかった。そして、シュラはまた黙
って歩き出した。後ろを振り向くといつの間にかサラはいなくなっていた。

 暗い森の中で黒い羽の生えた者たちが騒ぎだした。
「来たか・・・・。シュラめ・・・俺たちを滅ぼす気なのか?」
「どうする?このままいてもいつかはやられるはずだ・・・。認めたくないがシュラの予言は絶対だ。」
「ああ、今まで外れたことがない。」
「どうにか、俺たちも対策を立てなければ・・・・・・。」
さまざまな声が暗い森の中に響き渡る。しかし、その中で1人不敵な笑みを浮かべるものもいた・・・。

 光弥が通された部屋は自分の家よりも大きいと言える大広間だった。
「・・・・・・・・・・・・。」
予想はしていたがやはり、口を大きく開けて呆然としていた。
「どうか、いたしましたか?」
シュラは1番前にある大きな椅子に座った。
「いいえ・・・ただ、大きな部屋だなぁ・・・っと。」
「そうですか?」
光弥の言動がさも不思議そうにシュラは言ったのだが光弥は誰もがそう思うだろうと思った。すると、
執事が椅子を1つだけ持ってきた。しかし、光弥はその椅子を見て、とても座りにくかった。
(こ・・・・こんな・・・・金でできた椅子に座れと・・・?)
ためらっていたが周りから視線を感じたため椅子は金じゃないと言い聞かせ座った。
この金でできた椅子もこんなに広い部屋に1つだけ置いてあると、とても寂しく感じる。
「さて・・・どこから話せばよいのでしょうか?」
シュラは悩んでいた。光弥は即座に聞いた。
「ここは、どこだ?」
「白翼国。」
「白翼国?」
聞き返すとシュラは呆れるような口調で言った。
「あなたたち人間は本当になにも知らないのね。いいわ、説明しましょう。ここは、あなたたち人間が
 住む世界とは大きくかけ離れた世界。ここに、来られる者は体から抜け出した魂だけ。」
「魂?」
「人間界では死者と言うわね。」
死者が来る世界。羽の生えた住人。光弥ははっとなって言った。
「ここは、天国なのか?」
シュラは大きくため息をついた。
「違うわ。人間たちの言う天国って極楽のことでしょう?ここは決して極楽などではないわ。
 ここは、人間界と同じように戦争もすれば住人は働いて食にありつく。それができなければ、社会か
 らのはみ出しものということよ。」
光弥はますますわからなくなっていた。
「じゃあ、最終的にここはどこなんだ?俺たちが住む世界から見てどこにあるんだ?そして、一体なん
 のためにこの世界があるんだ?」
「それは、すぐにわかるわ。そう・・・、今夜にでもね。」
「え・・・・・・。」
それだけ言われると光弥は使いに部屋を追い出されてしまった。そして、また長い廊下を歩き他の部屋
に案内された。
「シュラ様から今日はこの部屋を使っていいということなので、今日はここで寝てください。」
大きな扉を開けると広い部屋があり、その中には大きなベッドや机や椅子など様々なものが用意されて
あった。
「それでは、いい夜をお過ごしください。」
使いは不気味な笑みを浮かべそう言った。光弥はその笑みに対して特に気に留めなかった。それよりも
シュラの言っていたほうが気になっていた。
「今夜にもわかるってどういうことだ・・・?」
とりあえず、色々なことがあって身体が疲れていたのでベッドにもぐりこみ、すぐに深いねむりについた。


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